広告の左下に「男ざかりのクラウン」という太いゴシックが置かれ、誌面の右上には船長帽をかぶった壮年の男性、背景には帆船と大きな舵輪が描かれています。ヨットやクルーズを思わせる意匠が重ねられ、紙面全体が「余裕のある大人の時間」で統一されています。
コピーは「豪快にいきましょう。」。本文ではクラウンを「堂々たる陸のクルーザー」と表現し、「胸のすく操縦性、ぜいたくな装備」と続けます。車としての実力を下敷きにはしながら、それ以上に「こういう気分で乗る車です」と先に印象づけています。昭和の自動車広告らしい、気分に訴える強い作りです。
掲載車両はクラウン・ハードトップSL(MS70-KS)です。セダンの格式を残しながら、個人が自分で乗る高級車としての華やかさがあります。
4代目クラウンは、格式だけの車ではなくなっていた
MS70系は1971年に登場した4代目クラウンです。この世代ではハードトップが設定され、クラウンの見え方が少し変わりました。従来のクラウンが持っていた公用車や社用車の延長にある高級車イメージに対して、こちらはもう少し私的です。広告本文でも「重厚さとスポーティさの調和したスタイル」と説明されていて、トヨタがその変化を自覚していたことがわかります。
狙っている対象は明快です。「男ざかり」という言葉が示すのは、働き盛りの壮年男性です。役職や所得、余暇の過ごし方まで含めた人物像が、服装や背景と一体で設計されています。クラウンを買うことが移動手段の選択ではなく、社会の中での立ち位置の表明になっていた時代の広告です。
「陸のクルーザー」というコピー
「堂々たる陸のクルーザー」という表現が目を引きます。帆船、舵輪、船長帽というビジュアルともきれいにつながっていて、クラウンに速度や鋭さではなく、ゆとりをもって長く走る感覚を与えています。飛ばす車ではなく、巡航する車として見せているわけです。
ただ、この言葉はトヨタの車名史を知ると少し面白くなります。トヨタは1950年代からランドクルーザーを販売していました。この広告がランドクルーザーを直接意識していたとまでは言えませんが、同じメーカーの中で「クルーザー」という語がすでに強いイメージを持っていたことは確かです。
ランドクルーザーが背負っていたのは、悪路でも壊れず進む信頼性、道を選ばない走破性、厳しい条件でも使える道具としての強さでした。一方で、このクラウンの広告が借りている「クルーザー」は、都市的で、もっと私的です。語っているのは、荒地を越える力ではなく、豊かさの中を悠々と移動する感覚です。同じ「クルーザー」という言葉でも、ランドクルーザーでは実用の強さに、クラウンでは高級車としての余裕に変換されているズレが面白くもあります。
クラウンの伝統と、ランドクルーザーの耐久性や走破性。性格の違う看板車を併せ持っていたことが、この頃のトヨタの厚みでした。この広告からは、MS70系クラウンの造形だけでなく、高級車に求められていた役割も見えてきます。クラウンは、豪華さや余裕を備えた大人の車として描かれていました。

