「“安全”あっての楽しい夏休みです。」
1969年のトヨタ・コロナ マークⅡの広告は、車の性能ではなく「安全」という言葉から始まります。紙面いっぱいに広がる黄色い海とヨットの風景は夏のレジャーを思わせますが、その楽しさの前提としてまず安全が語られているのです。
「本格的ハイウエイ時代」と交通戦争
本文は「本格的ハイウエイ時代。ますます長距離ドライブの機会がふえます」と始まります。1969年は名神高速の全線開通から5年、そして東名高速が全線開通した年でもありました。夏の行楽シーズンに長距離ドライブへ出かける家族が増えていた、その実感がそのまま広告の言葉になっています。
ただ同じ1969年、日本の交通事故死者数は年間1万5千人を超えていました。翌1970年には1万6,765人に達し、のちに「第一次交通戦争」と呼ばれる時期のピークを迎えます。夏休みは事故が増える季節でもありました。
広告の中にある「エンジンやブレーキ系統をはじめ、すべてに細心の設計配慮です」という一文は、こうした時代の空気の中に置かれています。レジャーを楽しみたい気持ちと、事故への漠然とした不安。その両方が1969年の夏にあり、トヨタはその緊張を「安全あってこそ」という言葉で結びました。
〈ゆうゆう設計〉というキャッチフレーズ
右下には〈ゆうゆう設計〉というキャッチフレーズが添えられています。余裕ある設計、という意味合いで当時のコロナ マークⅡに与えられた言葉でした。
1968年9月に登場したマークⅡは、クラウンとコロナの間を埋めるクラスとして登場したモデルです。「ハイオーナーカー」という言葉とともに売り出され、排気量は1,600ccと1,900cc。この広告の車は1600ハードトップです。
黄色いビジュアルは夏の陽光と楽観を演出しながら、キャッチコピーの「“安全”」という言葉にはあえて括弧が付けられています。楽しさと安全を並べたとき、どちらを先に置くのか。この広告はその順序を迷うことなく決めていました。
海とヨットの風景の中に置かれたコロナ マークⅡは、1960年代の日本で広がり始めた新しいドライブ文化を静かに映しています。「安全あっての楽しい夏休みです。」という言葉は、その時代の家族のドライブを思い浮かべて書かれたコピーのように見えてきます。

