鮮やかな樹木のイラストを背景に、家具のような佇まいの室内機が置かれています。中央に配置された機械の周囲には、木の葉の色を思わせるグラデーションが広がっています。
「お部屋に合わせて、気分によって表情が変わる……《木かげ》」
1970年に東京芝浦電気(現・東芝)が発売したルームクーラー「木かげ」の広告です。冷房装置が単なる機械から、住空間の一部として扱われ始めた時代を象徴する製品でした。
都市生活に広がる家庭用冷房
1970年前後、日本の住宅環境は急速に近代化していました。都市部では団地や集合住宅が増え、夏の暑さをしのぐための冷房機器への需要が高まっていきます。それまで夏の暑さは扇風機やすだれでしのぐのが一般的でした。しかし高度経済成長とともに生活水準が向上し、家庭でも冷房を求める声が強くなります。
エアコンはまだ贅沢品ではありましたが、居間や応接間に設置される家電として、徐々に普及の段階に入り始めていました。
ロータリーコンプレッサーの技術
この製品の最大の特徴は、心臓部に採用されたロータリーコンプレッサーにあります。この部品だけでも、特許19件、実用新案28件が出願されていたとあります。
従来の往復式(レシプロ)に比べ、ロータリー式は小型で振動が少なく、静かな運転が可能になります。この技術によってエアコンの小型化が進み、家庭の室内にも設置しやすい機器となりました。
室内機は、壁掛け、棚載せ、床置きといった設置方法が可能で、日本の限られた住空間にも柔軟に対応できる設計になっています。
家具のようなエアコン
この広告で特に印象的なのは、エアコンを インテリアとして見せている点です。
前面パネルは交換式で、
・木かげ
・小紋
・木目
・レザー
・西陣模様
といったデザインが用意されていました。
部屋の雰囲気に合わせて外観を変えられるという発想は、当時としては新しいものでした。冷房機器を単なる機械ではなく、室内空間に調和する家具として扱おうとする試みです。
価格は 108,000円(工事費別)。家庭用家電としては高価な製品でしたが、快適な室内環境とインテリア性を兼ね備えた設備として販売されていました。
この東芝のルームクーラー「木かげ」は、冷房機器が家庭に浸透し始めた1970年代初頭の時代を象徴する製品でした。性能だけでなく住空間との調和を意識した設計は、家電が生活文化の一部になっていく過程をよく示しています。

