1970年 グランドセイコー|精度を前面に出す高級時計戦略

感性の記憶

畳の上に置かれた茶道具。その傍らにグランドセイコーが静かに配置されています。工業製品である腕時計を、日本の伝統的な空間の中に置く構図です。精密機械としての時計を「精神性」と重ねて表現しています。

文字盤に記された「36000」。
これは1時間に36,000回、毎秒10回テンプが振動するハイビート仕様を示します。振動数を高めることで姿勢差や外乱による誤差を抑え、機械式時計としての精度を追求した設計でした。当時の国産機械式時計の到達点の一つといえます。

価格はステンレス側で37,000円、18金側で190,000円。
明確に二つの階層が用意されています。実用高級機としての位置づけと、より格式を意識したモデルの両立です。

右下には「EXPO ’70(大阪万博)」の公式時計マークが添えられています。万博という国家的イベントと重ねることで、日本の技術水準を象徴する存在として提示しています。

1969年末にはセイコーがクォーツ式腕時計を発表し、時計産業の前提が変わり始めていました。その直前に位置するこの広告は、ゼンマイと歯車による機械式の完成度を示すものです。電子化が進む直前の、純粋な機械精度の競争期でした。

現在、当時のハイビートモデルはアンティーク市場で安定した評価を受けています。特にオリジナル状態を保つ個体は流通量が限られ、価格も個体差に応じて形成されています。一方で、毎秒10振動という高振動機は摩耗も早く、定期的なオーバーホールが不可欠です。専門技術を持つ職人による整備が前提となります。

読み取れるのは、精度を追い込むこと自体に価値を見出した時代の姿勢です。茶室という静かな空間に置かれた腕時計は、派手さではなく精緻さを語っています。一秒の積み重ねを正確に刻む。その思想が、紙面全体から伝わってきます。