「あなたの車、保険装置付?」
1983年(昭和58年)の雑誌に掲載されたこの広告は、ほとんど商品の説明をしていません。補償額も保険料も具体的な条件も出てこない。紙面の中央には運転席から見たステアリングとメーターパネルのイラストがあり、コピーはただ一つの問いかけだけです。
本文は静かな調子で続きます。路上に出れば次々と予期しない場面に出会う。日常生活でも忙しいのに、運転となればさらに余裕がなくなる。スーパーマンでも完璧な運転は難しい。だから少なくとも心には余裕を持たせたい。そのための備えが保険だ、という流れです。
ここで売られているのは「心の余裕」です。ドライバーの心理に直接語りかけています。
「保険装置」という発想
この広告の核心は「保険装置」という言葉にあります。通常、自動車の安全装置といえばシートベルトやブレーキなど車両に備わる機構を指します。しかしこの広告では、保険そのものを車の装備として捉えています。
そして、「最大にして効果的な安全装置といえるのが保険なのです」と書かれています。
1983年当時、日本の自動車保有台数は約4,400万台に達していました。二輪車を含めれば6,000万台を超えます。車はすでに生活の必需品でした。
自動車損害賠償責任保険(自賠責)は強制加入ですが、任意保険の加入率はまだ十分とは言えず、保険会社各社が加入促進に力を入れていた時期でもあります。「保険装置付?」という問いは、保険を車の安全装備の一つとして認識させようとする業界全体の課題意識をそのまま表しています。
日動火災海上は1908年創業の損害保険会社で、1983年当時は業界大手の一角でした。後に安田火災海上との合併を経て現在の損害保険ジャパンへとつながっていきます。
商品説明をほとんどせず、ドライバーの心理に直接語りかける構成は、現代のブランド広告にも通じるものがあります。ハンドルを握る人の状況から話を始めるこの広告は、1980年代の交通社会の空気をそのまま映しています。

