1989年の出光興産の広告です。まず目に入るのは、画面いっぱいに置かれた赤い「MOTION」の文字です。その中に「つぎの活気へ。」と添えられ、下には「出光の新しい運動です。」と書かれています。
「MOTION」は、出光が打ち出した新しい販促キャンペーン、あるいは企業としての新しい動きそのものを指す言葉として使われています。英語の motion には、動き、運動、活気といった意味がありますが、この広告もまさにその感覚で組まれています。
音楽のあるガソリンスタンド
ガソリンスタンドの広告でありながら、ガソリンの性能や価格を語っていません。本文には、サービスステーションはミュージックステーションであってもいいはずだ、という発想が出てきます。燃料やオイル、各種パーツを扱う場所であることは前提にしつつ、そこに音楽まで重ねてくるわけです。
1980年代の広告にはこういう勢いがありました。機能の説明だけではなく、その場所が持つ気分や時間の価値まで広げて見せるやり方です。給油所を単なる補給地点で終わらせず、ドライブへ向かう気持ちまで整える場所として見せようとしていた。その発想を一言で包んだのが「MOTION」だったのだと思います。
「ステキな音楽も、標準装備したいなあ。」というコピーも効いています。標準装備という自動車用語を音楽に転用するだけで、クルマとサウンドが自然につながります。こういう軽い言葉遊びにうまさがあります。
とんねるず起用
とんねるずの2人が車のリアまわりを思わせるソファに腰掛けています。整備や給油の現場感はほとんどなく、全体にあるのは軽さと遊び心です。
1989年当時のとんねるずは、若者文化の中心にいた存在でした。その2人を起用することで、このキャンペーンが誰に向いていたのかもはっきりします。クルマをただの移動手段ではなく、音楽やノリや気分と一緒に楽しんでいた世代です。スーツ姿で少し気取っているのに、どこかふざけて見える。そのバランスも含めて、80年代末らしいです。
ガソリンスタンドの新たな役目
1980年代後半は、クルマが強く、車内の音楽もまた生活の一部になっていた時代でした。カセットとCDが並び、カーオーディオが単なる装備以上の意味を持っていた頃です。そんな時期に、石油会社が「燃料」だけではなく「ドライブ気分」のほうまで広告に持ち込んだのは時代に合っていました。
「MOTION」は派手な英単語ですが、やっていることは案外わかりやすい。スタンドを、燃料を入れるだけの場所ではなく、少し楽しい場所に見せたかった。その素直さが、この広告には残っています。

