漆黒の背景に、銀色の腕時計が浮かび上がっています。その上には小さな銀電池が輝き、静かな光を放っています。
「銀電池のエネルギーがゼンマイをなくした」
1969年にシチズン時計が発表した電子腕時計 エックスエイト(X8) を紹介する広告です。国産初の本格的電子腕時計として、機械式時計の時代に新しい方向を示したモデルでした。
万博の時代と電子時計
1960年代後半、日本社会は急速な技術革新の時期にありました。翌1970年には大阪万博(EXPO’70)が開催され、エレクトロニクス技術への期待が社会全体に広がっていました。
広告の左上には万博のロゴマークが配置されています。当時の社会が科学技術の進歩を強く意識していたことがうかがえます。
シチズンは、ゼンマイで動く従来の腕時計に電子技術を取り入れることで、新しいタイプの時計を提示しました。このモデルは世界85カ国に輸出され、「タッチレスウォッチ」とも呼ばれました。日本の精密技術が国際市場で存在感を高めていく時期を示す製品でもありました。
ゼンマイをなくした銀電池
X8の最大の特徴は、動力源として 銀電池 を採用した点にあります。
それまでの腕時計は、ゼンマイを巻き上げることで動く機械式が主流でした。このモデルでは小型の銀電池をエネルギー源とし、電子回路によって安定した動作を実現しています。
回路にはトランジスタが採用され、機械的な接点を減らすことで摩耗や故障のリスクを抑えました。リューズはスイッチとして機能し、操作だけで長時間動き続ける設計となっています。秒針停止装置も備えられ、精度調整の利便性も考慮されていました。
価格は皮バンド付きで32,000円、金属バンド付きで33,000円。電子技術を取り入れた新しい腕時計として市場の注目を集めました。
ゼンマイの精密機械から電子制御の腕時計へ。
X8は、腕時計が電子の時代へ移行していく転換期を象徴する製品でした。

