「ポケットに収まって電池内蔵」
いまでは当たり前に思えるこの仕様は、1970(昭和45)年当時には「世界のビジネスマンの夢」として語られていました。
登場するのは、キヤノンが発表した電子ポケット計算機です。当時の電子計算機はまだ卓上機が中心で、大きく重い装置でした。企業の事務部門や研究用途で使われる設備に近い存在だったのです。そこに現れたのが、持ち運びを前提にした計算機でした。机の上に据える装置だった計算機が、個人の道具へと変わり始めた瞬間でもあります。
広告の右側には、機体が実物大で掲載されています。高機能な電子機器が手のひらに収まるという事実を、写真そのもので示す構成です。
下部には、製品名のネーミング募集も告知されています。賞品はハワイ旅行でした。1964年の海外旅行自由化から数年、ハワイは豊かな生活の象徴とされていた時代です。新しい電子機器と海外旅行を結びつけた演出には、当時の高揚感が表れています。
ポケットロニックという新しい計算機
この機体は、後に「ポケットロニック」という名称で知られるようになります。
表示方式には、サーマルプリント(感熱記録)が採用されています。液晶画面に数字を表示するのではなく、計算結果を紙テープに印字する仕組みです。計算結果をそのまま記録として残せるため、ビジネス用途では重要な機能でした。
本体サイズは幅101mm、長さ208mm、重量740gです。現在の電卓と比べると大きく感じられますが、それまでの卓上電子計算機が数キログラムあったことを考えると、このサイズは画期的でした。
キヤノンはカメラメーカーとして知られていましたが、精密加工技術と電子技術の開発にも力を入れていました。その技術が電子計算機の分野にも応用され、このような小型機が実現したのです。
計算機が設備から個人の道具へと変わり始めた時代でした。この広告は、電子技術が日常の仕事のあり方を変え始めた瞬間を伝えています。

