夜の舗道に赤いRX-7が停まっています。後ろ姿です。黒いコートを着た人物が、車のリアに手をついてうつむいています。絵になる構図ですが、何をしているのかはわかりません。
画面右上の縦書きコピーは「私かしら、断然たる魅味。」。
意味をすぐに解読しようとすると、すり抜けます。「魅味」という言葉は辞書的な語ではなく、「魅力」と「風味・趣き」を合わせたような造語です。そして主語が「私かしら」という問いかけになっています。「私はスポーツカーが好きだ」ではなく、「もしかして私、これが好きなのかもしれない」という自問の形です。
説明より、問いかけ
右段の本文はさらに踏み込みます。「新しいセヴンを語る前に、お尋ねします。昨日と比べて、あなたはどう変わったか」という書き出しで、新型の仕様説明には入らないまま、読者に自問を促します。「パワー・ウェイト・レシオ6.09、この身軽さが、このサイズがスポーツカーだ」とだけ述べて、あとは「スポーツカーであることにまっ正直にこだわってきた」と繰り返す。
スペックとしてはGT-Xグレードにツイン・スクロール・ターボ(205ps/6,500rpm)が記載されています。ビスカスカップリングL.S.D.、シングルモードダンパー、アルミボンネットといった装備も明記されていますが、広告はそれらをほとんど前に出しません。
’89ル・マン、オピニオン募集
下段には「’89 LE MANSスポーツカーを刺激する7人。オピニオン、募集。」とあります。テーマは「常識にとらわれない、スポーツカーの楽しみ方」。優秀者7名をル・マン観戦に招待するというキャンペーンです。読者を「オピニオン」として巻き込む構成は、RX-7の購買層を技術仕様で説得するのではなく、スポーツカーへの態度を共有できる人間として位置づけています。
「私は、スポーツカーに乗っています。」というサブコピーは、所有の事実を誇示する言葉というより、乗り手の自己認識を静かに問い返す言葉として機能しています。車の広告でありながら、ここでは説明よりも問いかけの方が多く置かれているのです。
FC3Sは1985年から1991年まで生産され、その後FD3Sへと引き継がれました。現在も旧車として国内外に愛好家が残り、保存状態のよい個体は年々数を減らしています。
それでもこの広告を見ていると、ここで語られていたのは単なる速さではなく、「スポーツカーに乗るとはどういうことか」という問いそのものだったようにも思えてきます。

