1983年 ホンダ プレリュード|FFクーペの転換点

1983年発行のホンダ プレリュード雑誌広告。赤いXXタイプが海岸線に停車し、「Something Coming/私の時が始まる。」の見出しが左に大きく配置されている。 名車と美学

海岸に赤いクーペが一台、停まっています。曇天。波打ち際に近い砂浜。「Something Coming」という英語の見出しが画面左を占め、その下に小さく「私の時が始まる。」と添えられています。何かが来る、という広告です。具体的な車名はページをめくるまで出てきません。

右頁には、「FFスーパーボルテージ 新プレリュード登場。」という赤い見出しが現れます。

この広告が打たれた1983年、ホンダはFF量産15年・累計700万台という数字を持っていました。シビックから始まったFF技術の蓄積が、このプレリュードで一つの頂点を記しました。

日本初、4輪アンチロックブレーキ

新型プレリュードが訴求した技術は三つです。CV・デュアルキャブ12バルブエンジン(1,829cc・125ps)、フォーミュラ由来と銘打ったダブルウィッシュボーン式フロントサスペンション、そして「日本初」と広告に明記された4輪アンチロックブレーキ=4W A.L.B.。

このうち最後の一つが、当時もっとも注目された装備でした。急制動時に車輪がロックして操舵不能になるのを防ぐこの機能は、それまでトラックや航空機の領域にあったものです。XZ・XXグレードへの標準装備として実装されたこの装置は、安全装備が販売訴求の柱になった国産乗用車の最初期の例として記録されています。

FFという主張

ボディは全幅1,695mm、全高1,295mm。Cd値0.34。広告の言葉を借りれば「ウルトラ・ワイド&ロー」のシルエットで、FF車の重心とスタイリングの関係を意識した設計でした。

「Something Coming」が予告したのは、技術の更新というより、FFスペシャルティというジャンルそのものの確立宣言だったかもしれません。クーペとしての完成度を問うのではなく、FFという駆動方式が走りの軸になり得ると主張した広告でした。

現在、2代目プレリュードはFF国産クーペの歴史的文脈を持つ一台として旧車市場でも流通しており、状態のよい個体は年々少なくなっています。いまも愛好家の間で語られる存在ですが、この広告を見ていると、ホンダが当時見せようとしていたのは単に「速いクーペ」ではなく、少し大人びた新しいクーペ像だったと伝わってきます。