冬の暖房は、長いあいだ炭火や練炭が中心でした。部屋の隅に置かれた火鉢やストーブの火を囲む光景は、昭和の生活を象徴する風景の一つでもあります。
1958(昭和33)年に掲載された三菱電機のこの広告は、そうした時代の感覚を背景にしています。誌面には大きく「火が恋しい!」というコピーが置かれています。しかし中央にあるのは火を使わない電気ストーブです。電気という新しい暖房方式を紹介しながら、人々が長く親しんできた火の温もりの記憶に訴えかける構図になっています。
製品は600Wの高級角形ストーブ、R-604形です。
価格は3,900円と記されています。昭和30年代後半の公務員初任給は1万円台前半であり、家庭用家電としては安価とは言えない水準でした。それでも電気ストーブは都市部を中心に少しずつ普及していきます。
電気暖房という新しい家庭用品
電気ストーブの特徴は、扱いやすさでした。
燃料を用意する必要がなく、点火の手間もありません。スイッチを入れるだけで発熱体が赤外線を放射し、前方の人や物を直接温めます。
反射板の構造にも触れられています。発熱体とガイシの接触面を少なくすることで熱効率を高め、前方へ効率よく暖気を届ける設計です。家電メーカーが暖房器具の構造や性能を積極的に説明し始めた時期でもありました。
外観も当時の工業製品らしい直線的なデザインです。木製の脚部と金属ガードの組み合わせは、機能性と室内調和の両方を意識したものです。暖房器具が単なる生活道具ではなく、家庭の設備として扱われ始めたことが分かります。
炭や灯油を扱う暖房と比べると、電気ストーブは手入れの手間が少なく、室内も汚れません。
こうした利便性が評価され、電気暖房は高度成長期の家庭に徐々に定着していきました。
日本の暖房が「火の時代」から「電気の時代」へ移り始めた瞬間を伝える一枚です。

