設計図の上に置かれた腕時計。
コンパスを持つ手元に、白と黒で構成されたダイヤルが浮かび上がります。
「ストップウオッチがついた ビジネスウオッチ、セイコークロノグラフ。」
腕時計は時刻を知る道具にとどまらず、計測機能を備えた実用品として提示されています。
掲載モデルは自動巻きクロノグラフ(23石)。
文字盤には30分計と12時間計を備え、ベゼルにはタキメーター目盛が刻まれています。1kmの走行時間から平均時速を算出できる設計です。価格はステンレスモデルで30,000円と記されています。
1972年当時の大卒初任給はおよそ5万円前後でした。月給の半分以上にあたる金額です。簡単に手を出せる時計ではありません。それでも、最初の給料でこの一本を選んだという記憶を持つ世代がいます。時間を測るためだけではなく、これからの時間を自分で管理するという意思を手元に置く感覚に近い買い物でした。
1969年に世界初のクォーツ腕時計を発表したセイコーは、電子式の開発と並行して機械式クロノグラフの完成度も高めていました。国産初の自動巻きクロノグラフとして登場したこの世代は、その技術的到達点の一角にあたります。
風防には特殊強化ガラス「ハードレックス」を採用しています。防水性や耐久性にも配慮され、日常使用を前提とした設計でした。スポーツ用途だけでなく、ビジネスの現場で使われることを想定しています。
1970年代、日本では分単位の時間管理が広がり始めました。移動時間や作業時間を計測することが、合理性の象徴でもありました。この広告は、その感覚を静かに映しています。
現在、この世代のセイコークロノグラフはヴィンテージ市場で確かな評価を得ています。ケース形状やダイヤルレイアウトの個性、そして国産初の自動巻きクロノグラフという歴史的背景が価値を支えています。実働を維持するためには定期的なオーバーホールが必要で、修理や部品に関する情報も今なお共有されています。
「秒の世界をキャッチする。」
秒単位で物事を管理しようとした時代の感覚が、この一本に刻まれています。

