夕暮れを思わせる紫色の背景に、男性の手のひらに収まる黒い小型ボディが浮かび上がっています。
「旅は、男を充電する。」
1981年のこの広告は、移動が日常化し始めた時代において、身だしなみの道具にも機動力が求められていたことを伝えています。
掲載モデルは、ナショナル「輪のスピンネット トラベル ES651」。
最大の特徴は、その小型設計にあります。高さ約7.3cmというコンパクトな筐体に、コンセントへ直接差し込める飛び出し式プラグを内蔵しています。ACアダプターやコードを別に持ち歩く必要がなく、本体だけで充電が完結する構造です。
価格は4,950円。
日用品というよりも、機能性と携帯性を両立させたパーソナル家電という位置づけでした。
スペック面では、約8時間の充電で1日1回3分使用としておよそ1週間の使用が可能とされています。ニカド電池を採用し、乾電池交換の手間を省く利便性を提示しました。刃にはナショナル独自の「スピンネット」方式を採用し、小型ながら実用的な剃り味を追求しています。
1980年代初頭、日本の家電メーカーは小型・軽量化を競っていました。
高性能を手のひらサイズに収めることが技術力の象徴であり、個人が持ち歩く家電という発想が広がりつつありました。トラベルシェーバーはその流れの中に位置しています。
現在、この種の充電式家電は内蔵電池の寿命という課題を抱えています。動作品は徐々に少なくなっていますが、外装の造形やスイッチの操作感を評価する声もあります。電池を換装して使い続ける試みも見られ、当時の設計思想が再評価されています。描いているのは、移動する生活に合わせて、道具もまた変化していくという発想です。
手のひらに収まる黒い筐体には、機能と携帯性を両立させようとする時代の意志が込められています。

