1970年 TDK|フェライトと電話計算サービス

TDK 1970年 雑誌広告|黒背景にプッシュボタン電話、「フェライトとの対話番号=0100111」のコピー 技術の足跡

漆黒の闇に浮かぶプッシュボタン電話。
製品の華やかさではなく、その内部にある「素材」を主役に据えた広告です。

「フェライトとの対話番号=0100111」

1970年、電電公社は「電話計算サービス」を開始しました。プッシュホンを端末として電話局の大型計算機に接続し、遠隔で計算処理を行う仕組みです。音声回線を通じて数値信号を送るという発想は、電話を単なる通話装置から“情報端末”へと拡張する試みでした。

その基盤を支えたのが磁性材料です。

フェライトは酸化鉄を主成分とする磁性体で、トランスやインダクタ、ノイズフィルタ、磁気ドラム、磁気コアメモリなどに用いられます。1960年代後半から1970年代初頭にかけて、コンピューターは第2世代から第3世代へ移行しつつありました。磁気コアメモリが主流で、IC化が進行する過渡期です。安定した磁性特性は、演算精度と記録信頼性を左右しました。

プッシュホンの普及もこの時期に本格化します。回転ダイヤルからボタン入力へ。音声パルスからトーン信号へ。入力方式の変化は、通信回線のデジタル化を加速させました。広告に示された「0100111」という数字の羅列は、電話番号であると同時に、2進数的なイメージを想起させる表現です。アナログ社会の中に、デジタルの芽が顔を出し始めていました。

TDKはフェライト粉末の研究開発から出発し、テレビ、ラジオ、オーディオ、通信機器向けの磁性部品で世界市場を拡大していきます。最終製品のブランドが脚光を浴びる一方で、電子部品メーカーはその内部構造を支える存在でした。この広告は、完成品を誇るのではなく、電子工業の根幹を担う素材技術を示しています。

1970年前後、日本の家電生産額は急増し、電子機器は家庭へ、学校へ、産業へと広がりました。テレビやステレオが普及する背景には、ノイズを抑え、信号を安定させる磁性部品の進化があります。フェライトは目立たない部材ですが、電子立国化の基礎を構成しました。

「あなたとフェライトの対話は、今後ますます盛んになるでしょう。」

広告のこの一文は、消費者に向けたメッセージであると同時に、電子化社会の拡張を示唆しています。電話回線と計算機、磁性体と信号処理。情報化社会の輪郭は、こうした基礎素材の積み重ねの上に形づくられていきました。

この一枚が記録しているのは、製品の流行ではなく、社会構造の変化です。
目に見えない素材が、時代の基盤を支え始めた瞬間でした。